vol.365 : Reading Inequality
読書の男女格差
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読書の男女格差
「彼氏が本を読まない」というのが、若い女性たちにとって、単なる趣味の不一致以上の意味を持ち始めていることについて『Dazed』が伝えている。24歳のエイプリルは、本を「生きていることの好きな理由のひとつ」と言うほどの読書家だ。彼女は読んだ本に心を動かされ、その熱を誰かに話したかったが、隣にいる恋人とは、その会話が長く続かない。彼女はその「読書格差」が孤独の一部だったと振り返っている。
この話は例外ではなく、英米圏では本の購買層の大半を女性が占めているという。男性、とくにフィクションを読む男性は減っている。読書はいつの間にか「女性的な趣味」と見なされ、男性は情報を本ではなくポッドキャストなど別の場所から得るようになった。
しかし、そのズレが即破局につながるかというとそうではない。マディソンという女の子は、彼氏は本を読まないが、彼女には友人や読書会があり、読書生活を恋人だけに背負わせていない。また、エリアナという女の子の彼氏も本を読まないが、彼は彼女が主催する読書会の受付をし、写真を撮る役割を買って出たりしている。
この本では男女の関係性にフォーカスをしているが、これはより大きな視点で見ると、読書がニッチ化していること、そしてそれが複数の新しい意味を持ち始めていることの一つの表れでもあるのだろう。本を扱う書店や出版社はどのように新しい意味、価値を付与していくのかが問われるようになるだろうし、本を活用するブランドも同様にその取り扱い方のセンスが問われてくるだろう。
Help! My boyfriend doesn’t read Dazed
政治評論は退屈であるべき
かつて存在した「政治っぽい娯楽」と「本気の政治学習」の距離が、現在は失われていることについて『Slow Boring』が書いている。
90年代のパンクやギャングスタ・ラップには、反体制、暴力、反警察、革命ごっこといった危うい言葉が並んでいた。しかし、多くの場合、それは挑発であり、冗談であり、若者文化の過剰な身振りでもあった。例えば、1993年のブラットモービルの曲「Polaroid Baby」は、ロドニー・キング事件後のLA暴動を背景に「LAを焼き尽くせ」と歌っていた。筆者はその曲を政治的には全く支持していなかったが、楽しく聴いていた。ラップを聴いた若者が一斉に犯罪者になったわけではなく、Snoopは五輪中継の顔になり、Ice-Tはテレビの刑事になった。
一方で、現代はむしろティッパー・ゴア的な道徳主義(ポップカルチャーを“若者に悪影響を与える危険なもの”として監視・規制しようとする態度)に近づいている、と著者は見る。アーティストや俳優は、作品の内外で「正しい人間」であることを求められる。テイラー・スウィフトが選挙に沈黙したことが問題化され、シドニー・スウィーニーも共和党支持者かどうかが詮索されている。文化は皮肉や多義性よりも、明確な価値表明を要求するようになっている、とこの記事は語る。
著者の本当の懸念は、インターネットが文脈を剥ぎ取ることにある。かつて新聞には、真面目で退屈なニュースと、漫画や占い、スポーツ欄のような娯楽が同居していた。いまはすべてが単体で拡散され、大衆に届く政治コンテンツほど面白さが求められる。その結果、雑で刺激的な意見が報われる。政治を学ぶには、本来、ランドール・ケネディ(法学者)の『Race, Crime, and the Law』のような複雑で退屈な議論が必要だ。しかし、それを「Fuck Tha Police」のような一撃の強さに変えるのは難しい。政治コメントはつまらないくらいでいい。
一方で、コンテンツクリエイターがこれからつまらないコンテンツを出す必要はないようにも思う。実際、すでに政治関連のコンテンツには、重厚で示唆深い書籍や論考のような、退屈だが良質なものが溢れている。私たち自身が、そうしたものにもっと目を向ける必要があるのだろう。
Political Commentary Should be Boring Slow Boring
W杯に見るディアスポラ時代のナショナルチーム
この『Why Is This Interesting』の記事では、2026年のサッカーW杯に出場予定のチームや選手を見ながら、「ナショナルチーム」の意味そのものが変わり始めていることについて書かれている。象徴的なのが、人口15万6000人の島国・キュラソーの初出場だ。サッカーのインフラも限られる小国だが、代表メンバーのほとんどはオランダ生まれ・オランダ育ちの選手たちで構成されている。
2022年大会では、出場選手の16%が出生国とは異なる国を代表していたという。特にモロッコ代表は26人中14人が外国生まれで、フランス、オランダ、スペインなどの移民ルーツを持つ選手によって構成されていた。彼らはベスト4進出を果たし、大会の象徴的な存在にもなった。
記事では、こうした「デュアルナショナル」選手たちを3つのタイプに分けている。ひとつは、モロッコ代表のアムラバトのように、欧州代表を選ぶこともできたが、自らのルーツを理由に祖先の国を選ぶケース。二つ目は、アメリカ代表のように、欧州で育った選手たちが、より多くの出場機会を求めて別の代表を選ぶケース。そして三つ目が、今回のキュラソーやハイチのようなケースだ。彼らはオランダやフランス代表に選ばれるレベルではないが、両親や祖父母のルーツを通じて、小国代表としてW杯に出場する機会を得ている。アイルランド2部リーグの選手がLinkedIn経由でカーボベルデ代表監督から声をかけられ、ワールドカップ出場を決めたエピソードも紹介されていた。
48カ国への出場チーム数の拡大は、「FIFAの商業主義」として批判も多いが、一方でこれまで埋もれていたディアスポラ選手や小国のチームを世界舞台へ押し上げてもいる。ナショナルチームとは、生まれた場所なのか、育った場所なのか、それとも自分が帰属を感じる場所なのか。現代におけるアイデンティティの複雑さを、サッカーを通して映し出しているようにも見えた。
The World Cup Squad Edition Why Is This Interesting
アテンション時代の野球改革
アメリカで野球人気が再燃している背景について書かれている『The Financial Times』の記事が面白かった。メジャーリーグベースボール(MLB)は、「長すぎるスポーツ」として若年層離れが進み、2007年に約8000万人いた観客動員数は、2019年には6850万人まで減少していた。しかし昨年は7140万人まで回復し、日本を含む多くのプラットフォームで視聴者数も二桁成長しているという。また、単独チケット購入者の平均年齢も46歳から43歳へ下がっているそうだ。
背景にあるのが、MLBによる大胆なルール変更だ。2023年には投球間隔を短くする「ピッチクロック」が導入され、盗塁もしやすくなった。さらに今シーズンからは、AIを活用したボール・ストライク判定へのチャレンジ制度も始まっている。これによって試合時間は平均26分短縮され、盗塁数は34%増加。MLBによると、92%のファンがAIによる判定チャレンジを好意的に受け止めているという。
若い世代のスポーツ観戦習慣の変化についても触れられている。PwCの調査によると、若年層のうち、自宅で試合を最初から最後まで観る人は19%しかおらず、そのほとんどが同時に別の作業をしているという。「試合だけに集中して観る」と答えた人はわずか1%だったそうだ。多くの人は、SNSのハイライト動画で試合を消費している。
記事では、こうした変化をクリケットの短時間化フォーマット「T20」の成功とも重ね合わせていた。スポーツそのものを変えるというよりも、現代人のライフスタイルやアテンションの長さに合わせてフォーマットを調整していく。かつては「長い時間を共に過ごすこと」が価値だったものが、いまでは「限られた時間の中でどれだけ熱量を生み出せるか」へ変わりつつあるのかもしれない。それでも筆者は、野球が持つ共同体的な役割は失われていないと書いている。短くなったのは試合時間であって、人々をつなぐ力そのものではないのかもしれない。
Baseball is learning to live with shorter attention spans The Financial Times
ウィムジーという救命ボート
「Whimsy(ウィムジー)」という言葉が、Z世代とミレニアルのあいだで静かなトレンドになっていることについて『New York Times』が伝えている。「Whimsy」はかつては「気まぐれ」や「風変わりな可愛らしさ」を指す古風な言葉だったが、いまは不安定な世界に対する、ささやかで遊び心のある抵抗のスタイルとして捉えられるようになっている。
長年の親友でルームメイトでもあった相手との別れ、そして過酷なニュースの連続で沈んでいたロサンゼルスのポッドキャスター、リズ・プランクは、クリーム色のフリル付きタンクトップとショーツの「ウィムジー」なパジャマを着て眠るようになる。やがて朝には、かわいいコーヒーマシンで、スプリンクルまで添えた自分だけの儀式を始める。政治も戦争も経済も、自分の手には負えない中、それが彼女なりの自分の心を保つ方法なのだ。
この記事によると、Etsyでは「whimsical jewelry」「whimsical décor」などの検索が前年比で50%以上増えたという。手作り感、ヴィンテージ感、少し予想外で個人的なものなどだ。ポストカードを送ること、10歳の自分が喜びそうな遊びをすることなど、オフラインで、少し大げさに、少し子どもっぽく世界を取り戻す実践でもある。
この背景には情報の洪水がある。SNS上のやりとりの多くが不自然で演出的だと見抜いた彼らは、より本物らしく他者や自分とつながる方法を探しているとこの記事は分析している。Z世代は「壊れた時代」を生きる世代とも描写されることもあるが、ウィムジーとは、その中で自分の主権を取り戻すためのアプローチでもあるのだろう。
‘Whimsy,’ a New Trend, May Be a Life Raft for Zillennials The New York Time
ソバーキュリアスのその先
Z世代とアルコールとの距離感の変化について書かれた『The New Yorker』の記事が面白かった。この記事で紹介されていたGallupの調査では、アメリカでアルコールを飲む成人の割合は54%まで低下し、約90年の調査の中で最低水準になっているという。また、飲酒する人たちも以前より飲む量を減らしているそうだ。この背景には、ウェルネス志向や長寿への関心、GLP-1薬の普及、そしてGen Zの節酒傾向があるそうだ。
一方で興味深いのは、人々が単純に酒をやめているわけではない点だ。ロサンゼルスやニューヨークのバーでは、通常より小さなサイズの「tiny ’tini」と呼ばれるミニマティーニが人気になり始めている。また、アルコール入りのカクテルとノンアルコールドリンクを交互に飲む「zebra-striping」という行動も広がっているそうだ。かつて「mocktail」と呼ばれていたノンアルコールドリンクも、いまでは「N.A.」や「spirit-free」といった呼び方へ変わりつつある。
記事の中では、ワインコレクターたちの会話が、以前のような投資や贅沢ではなく、life extension(寿命を延ばすこと)へ移っている様子も描かれていた。さらに、GLP-1薬によって、お酒を飲みたい欲求そのものが減ったと感じる人も増えているという。飲むか飲まないかという二項対立ではなく、どのくらい飲むのか、どう飲むのかを自分なりに調整する意識や行動が広がっているのかもしれない。
それでも筆者は、飲酒文化そのものが消えるとは見ていない。カクテルが持つ儀式性や、バーで誰かと時間を過ごすことの魅力についても丁寧に書いている。完全に断つのではなく、少しだけ飲む。量よりも体験や時間を大切にする。ミニマティーニの流行は、そんな現代的な価値観を象徴しているようにも見えた。
The Age of “Intentional” Drinking The New Yorker
🌿 Cool Things of the Week
伊藤総研さんと内沼晋太郎さんが新しく始められたPodcast『編集を巡る。』のLobsterrゲスト回の後編が公開されました。ぜひ聴いてみてください。
編集を巡る。Ep.6:「読者を自分たちらしく裏切りたい。」|Lobsterr ②
🎙️ Podcast
eps.188 : Deliberate Humanness|Apple Spotify
アナログ回帰は幻想だった / レコード復活の次はDVDとBlu-rayか / ちゃんとしていなさが価値になる時代 / ウェルネス冷蔵庫という新しいトレンド / 新時代のデザイナーに求められるもの
eps.187 : Myth and Scarcity|Apple Spotify
家族の形の再設計 / マイクロドラマ量産工場の舞台裏 / Therapy Speakのその先へ / 平等の先にある、非対称な恋愛
esp.186 : The Book Crawl|Apple Spotify
台頭するクリップ・エコノミー / ベーグル業界に群がるファンドたちへ / 多様化するブッククラブの形 / メディアを席巻するパラソーシャル・コンテンツ / リカバリーが競争領域になる
👬 Membership
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